三角骨障害の内視鏡手術の手技について説明します。単に「三角骨を取る」というだけなら大差はありませんが、いかに軟部組織損傷を加えないようにして取るか、という点においては、巧拙に差の出る手術です。
手術方法(専門医向け)
準備
・患者さんを腹臥位にします。
・透視と透視装置は健側に、関節鏡モニターは見やすい方におきます。
・術者は患側の下に立ちます。
・ターニケットは準備だけしておきます(ほとんど不要です)。
・透視で側面像を見て、三角骨の位置、踵骨後突起の位置、距骨下関節、距腿関節、内視鏡の方向、ポータルの位置を記入します。
ポータルの作成
・アキレス腱縁から1cm離れた両脇、内果と外果のあいだの高さ(三角骨にまっすぐアプローチできて、踵骨後突起がじゃまにならない高さ)に、5mm の皮切をおきます。
・透視下に、直モスキートを用いて、三角骨付近のみを鈍的に剥離します。
※途中の脂肪組織は極力損傷を加えないようにします。術後の痛みの原因になります。
※三角骨周囲の剥離の際、内側の長母趾屈筋方向には器具を向けないように注意します。
※「三角骨はアキレス腱の真後ろ方向に位置する」ことを意識しておくと、迷入を防げます。
三角骨の同定
透視下に三角骨をひとかじり
・筆者はここで、透視下に三角骨をパンチでひとかじりするようにしています。その理由は
- 視野の悪いところで軟部組織の郭清を行うと、必要以上に軟部組織を損傷すること
- 視野の悪いところで三角骨を探すと、思わぬ方向(長母趾屈筋腱や神経血管束)に迷入していることがあること
- 三角骨の表面は軟部組織でおおわれており、周囲の靱帯などと見分けがつきにくいこと
などです。
透視下で三角骨をひとかじりしておくと、海綿骨(黄色)が露出して、周囲(白)との見分けがつきやすくなり、かつ少量の出血(赤)が滲むことで、内視鏡でもすぐに同定することができます。
※1.の「視野の悪いところでの軟部組織の郭清は極力控える」というのは、「軟部組織内に内視鏡を入れる」という、足の外科特有の手技に共通した鉄則です。
※透視下で三角骨をパンチでひとかじりするときには、①三角骨のもっとも後方をかじる、②内側(神経血管束の方)にパンチが向かないようにする、などの注意をします。
内視鏡下での同定
・径2.3㎜内視鏡を外側のポータルから挿入し、三角骨を見つけます。白い軟部組織に包まれた三角骨の黄色い海綿骨、およびそこからの少量の赤い出血を手掛かりにします。
※いったん距骨下関節にカメラを入れてから引き抜くようにして、三角骨を見つけるのも有効な方法です。「視野の良いところから悪いところに向かう」という基本技術です。
※教科書には、「長母趾屈筋腱を見つけてから三角骨を同定する」と書かれていますが、不要な手間だと考えています。その理由は、
1.長母趾屈筋腱は三角骨の奥にあるので見つけにくい
2.見つけるためには、三角骨の上方を探索する必要があるが、そのために軟部組織損傷を加えることがそもそも無駄
3.メルクマールとするなら距骨下関節のほうが有益
などです。
※径2.3㎜関節鏡では見つけるのは比較的難しいですが、径4.0㎜ではすぐに見つかることも少なくありません。
三角骨の切除
・三角骨を見つけたら、内側ポータルよりパンチを入れ、piece by pieceに切除していきます。
・三角骨を切除していくにつれて、長母趾屈筋腱が見えやすくなってきます。骨用シェーバーなどを使わずパンチを主に使うことで、長母趾屈筋腱を不用意に損傷するのを防ぎます。
・三角骨を切除し終わったら、長母趾屈筋腱の滑動を確認します。必要に応じて腱鞘を切開します。腱鞘の奥までカメラを挿入し、切開不足がないか確認します。
・最後に、術中もしくは術後レントゲンで、取り残しがないか確認します(三角骨が一塊になっているときは取り残しは少ないですが、粉砕しているときは遊離骨が軟部組織内に残っている場合があります)。
※軟部組織中に遊離する三角骨の破片をとるときは、パンチの先端で触知して取るのがよいです(鏡視で見つけようとして、軟部組織の損傷を広げるのはよくありません)。
軟部組織の低侵襲を目指して
学会で目にする内視鏡下三角骨切除のスライドを見ると、あまりに視野が良すぎると思います。それだけ軟部組織を郭清して視野を良くしているということです。学会発表的にはきれいに見えますが、患者さんへの侵襲はそれだけ大きくなります。
筆者の病院の治療成績は、論文や学会発表で見る治療成績より復帰が1カ月早いですが、これは
- 軟部組織損傷を極力抑えるようにしていること
- 関節鏡を2.3㎜と細いものを使用していること
によると考えています。
手術を始めたばかりであれば、視野の良い4.0㎜でやるほうが安全なので結構ですが、慣れてきたら段々と細い関節鏡を用いて軟部組織の侵襲を少なくしていったほうが、患者さんにとって優しい手術になると思います。