踵骨骨折の手術療法

踵骨骨折

ここでは、踵骨骨折に対する標準的な手術法である拡大L字皮切によるプレート固定と、筆者の考案した低侵襲手術を説明します。

踵骨骨折で治すべき3つのポイント

踵骨骨折における3つの転位形

踵骨骨折でばらばらになった骨片は、3つの特徴的なずれかた(転位のしかた)をします。

  1. アキレス腱に引っ張られて上に持ち上がった骨片
  2. 距骨に押されて落ち込んだ関節面の骨片
  3. 強い衝撃で外に膨らんだ外側壁の骨片

転位が残った時の症状

これらの転位が残存したまま骨癒合すると、それぞれ以下のような症状が出る可能性があります。

  1. アキレス腱に引っ張られた骨片 ⇒ 扁平足による足の疲れやすさ、内側の腱の痛み
  2. 落ち込んだままの関節面 ⇒ 関節のいびつなフィットに伴う痛み
  3. 出っ張ったままの外側壁 ⇒ 外側壁と靴によって腱が挟み込まれることによる腱鞘炎の痛み

手術では、この3つの転位を以下に治すかがポイントとなります。

プレート固定

方法

標準的な術式です。

  1. 踵骨の外側にL字皮切をおきます。
  2. 落ち込んだ関節面を戻します。
  3. アキレス腱のくっついた骨片を引きずり下ろします。
  4. 外に出っ張った外側壁を押し込みます。
  5. 外側にプレートを当て、外側壁を抑え込むとともに、アキレス腱の付いた骨片や関節面の骨片など次々にスクリュー固定します。

良い点

この術式の良い点は、どんなタイプの踵骨骨折にも通用するという点です。方法は定型的で、安定した治療成績を上げることが可能です。足の外科医必修の術式とも言えます。

欠点

踵骨の外側にL字状の皮切をおきますが、この皮切に伴う合併症が多いのが欠点です。

・軟部組織がうすいことによる創癒合遅延
・創癒合遅延に伴う感染
・創癒合遅延に伴う創離開
・軟部組織がうすいことによる骨と皮膚との癒着、むくみ、しびれ

拡大L字皮切の創離開

筆者の方法(最小侵襲法)

上記の拡大L字皮切による手術は、どんなタイプの骨折形にも対応できる汎用性の高い術式ですが、皮膚トラブルの可能性が高いのが最大の欠点です。それを踏まえ、筆者は1.5㎝の小皮切の手術(下記)を考案しました。まずは、どうして小さな皮切で手術が行えるのか、その理由を述べます。

前方の小皮切だけで十分な理由

各骨片への最適なアプローチはなにか

3つの骨片それぞれにどうアプローチしていくかによって皮切は決まります。

関節面

落ち込んだ関節面にどうアプローチするかが問題です。腱が一番じゃまにならずに、落ち込んだ関節面にしっかりアプローチできる場所となると、関節面の前方に皮切をおくことになります。

外側壁

外側壁は広範囲で突出していますが、わざわざ全体を露出させる必要はありません。皮下伝いにアプローチすれば、どこの皮切からでも外側壁をへこますくらいのことはできます。

アキレス腱の付いた骨片

引きずり下ろせばいいだけなので、皮切は必要ありません

★すなわち、骨片のアプローチは関節面の前方のみで十分、ということになります。

各骨片の固定は必要か

プレート固定ではすべての骨片をスクリュー固定しようとしますが、果たしてこれは必要でしょうか。

関節面の骨片

関節面の骨片は、距骨の強い負荷がかかって陥入したものですので、元の位置に戻したうえで、下にできた空間に人工骨を植えておけば、周りを骨に囲まれた状態になりますので、再びずれてくることはありません。

外側壁

これも骨折の時の踵骨に対する強い圧力で爆発するように外に飛び出したものですから、いったん押し込めば、再び外に押し出すような強い負荷はかかりません。

アキレス腱の付いた骨片

これはアキレス腱の強い牽引力が働きますので、ほかの骨としっかり固定しなければなりません。

★すなわち、関節面の下には人工骨があればよく、外側壁は固定する必要なく、アキレス腱の付いた骨片のみを固定すればよい、ということになります。

方法の詳細

上記の2つの★より、「皮切は外くるぶしの前1.5cmの皮切から関節面と外側壁の骨片へのアプローチは可能で、かつ、骨片の固定はアキレス腱のついた骨片のみ必要」ということになります。それを踏まえて考案したのが筆者の術式です。具体的には以下の通りです。

  1. 後距踵関節の前方に1.5㎝の小皮切をおきます。
  2. 腓骨筋腱を確保します。
  3. アキレス腱の付いた骨片を引きずり下ろして整復し、前方骨片とK-wire固定します。
  4. 外側壁を外に押しやって、陥入した関節面を見つけます。
  5. これをエレバトリウムで持ち上げます。
  6. 関節面を押し上げてできた空間に人工骨を充てんします。
  7. 外側壁を皮下に挿入した強弯エレバを押し付け、ハンマーでたたいて整復します。
  8. 踵の後方から、K-wireを関節面骨片の下に位置するように刺入します(buttless効果)。

治療成績

現在のところ、踵骨骨折の大きな問題点である創トラブルの症例は発生しておらず、また、術後の関節可動域(特に内返し)も良好です。

プレート固定と最小侵襲法の違い

以上のように、プレート固定は皮切の大きさのことは気にせず、外側壁をプレートで押し込んだうえ、すべての骨片をスクリュー固定するのに対し、筆者の最小侵襲法では、各骨片へのアプローチと固定の必要性を検討したうえで、最小の皮切で手術をすることを意図しています。

慣れていない医師は手を出すべきでない

踵骨骨折は、習熟度により差の出る手術です。「保存的治療と手術療法と比較すると、保存療法の方がよかった」という文献もあるくらいですから、慣れていない医師は、むやみに手を出すべきではありません。手術が必要と思われるひどく転位した骨折であれば、受傷したては腫脹によりすぐには手術できないのですから、入院の上、足を挙上しつつ、踵骨骨折手術に慣れた病院(労災病院や救急病院、足の外科専門病院)を探すのが得策と思われます。

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