概要
ジャーナルから依頼された査読についての日記です。
経過
2023-7-10:International Journal of Environmental Research and Public Health (IJERPH)というジャーナルから依頼された査読。このジャーナルは、Sciamago Journal & Country Rank (SJR)のPublic HealthのジャンルでQ2にランクされているので、それなりのジャーナルのよう。お題はアキレス腱(非付着部)症のレビュー。期限が1週間しかなく、7月12日とせまっている。イタリアの大学からの論文で、二人で原稿を準備したのち、複数人で編集・査読、さらに複数の監督者がチェックののち、全員が投稿原稿に同意したという気の入れよう。大学から複数人の共著者で論文を出すのなら、このくらいしてほしいものだ。おかげでこちらから指摘することはほとんどない。
2023-7-11:それにしてもずいぶんしっかりとしたレビューだと思ったので、共著者を調べたら、Maffulli先生と関係のあるグループらしい。責任者はMaffulli先生のところで論文を10本書いているし、筆頭著者もこれが6本目の論文のよう。アキレス腱症(アキレス腱付着部症・非付着部症)のうち、アキレス腱非付着部症にだけ限定したレビューであることがあいまいだったので、そこだけ指摘して提出。こういう査読は楽だ。
などと思っていたら、IJERPHの副編集長からメール。レビューを送ってくれてありがとうと言いつつも、以下の質問に答えて下さいと、レビューの追加を要求された。あまりにあっさりしすぎたか。とりあえず回答して返送。ついでにレビューアーのサイトを見ると、もうひとりの査読者のコメントを見ることができた。すると、かなり手厳しい評価(各評価項目5段階で2や3ばかり)。しかしよくよく査読コメント見ると、確かにそう直してもよいが、別に今のままでも大差はない、というものばかり。査読者は自分でレビューを書いたことがあるのだろうか。これだけの文献を参照しながらレビューを書くというのは大変なんですよ。それなら、自分が文献を読む手間を省かせてくれてこれだけの文献をまぁまとまりよく提示してくれるレビューはありがたいと思わないのだろうか。こういう人にばかり厳しいタイプには、じゃあお前の論文見せろよと言いたくなる。
2023-7-12:続いて、Foot & Ankle Specialistから依頼されている靴に関するレビュー論文の査読。締め切りが7月19日。
2023-7-13:FASの論文の査読。査読は締め切り間際にやるよりも、毎日少しずつ読み進めてはコメントを書いていく方がよいと思ってきた。結局最初に思いついたことが有効な意見なことが多い。
2023-7-15:FASの論文の査読。興味のないレビュー論文は苦痛だということがよくわかった。
2023-7-19:FASの論文の査読。2度目に読んだら1度目ほど苦痛ではなかった。レビューゆえ記述のほとんどは文献の引用なので、ほとんど直すところがない。厚底ランニングシューズについてのレビュー論文なのに「人類の歩行は…」といった大上段に構えた書き出しをしていたので、そういう冗長な記述は不要だと指摘。あとはマイナーリビジョンをいくつか指摘して終了。提出。
2023-7-23:2023-6-11に提出したFASの査読に対し、論文が修正されたので再度査読してくださいとの依頼が先週来ていたので、その査読。だいぶましになっている。ここでまぁいいやとしてしまうか、しつこく修正点を指摘するか、迷うところ。
2023-7-26:やはりしつこく指摘することに。もう一度最初から読み直して、気になるところを指摘。期限は現地時間の8月1日まで。足の外科では有名なTH Rui先生のグループからの論文だからか、初回はずいぶん甘く査読してしまったようで、よくよく見れば書き方はかなりお粗末だ。とくに気になるのは、方法と結果が一致していない点。何をやって、その結果がどうだったのかは、ちゃんと対応させて書かなければならない。
2023-7-27:昨日の続きのFASの論文の査読。どうしてこう図の説明が雑なのだろう。説明が雑で非をとがめられるのは著者自身なのに。
2023-7-28:昨日の査読の続き。ほぼ完成。
2023-7-30:査読コメントを見直した上で提出。書き方は稚拙な個所も多いが、論文のネタとしては十分にアクセプトされてよいものなので、こちらはひたすらに添削者にならざるを得ない。
2023-8-17:FASから、7/30に提出した査読に対する修正が著者から提出されたのでまた査読してください、とメールが来た。途中で投げ出すわけにもいかないので承諾。早速見ると、アブストラクトは言われるがままに直しているが、その結果、制限語数の250語をオーバーしている(269語)。どうしてこういうことになってしまうのだろうのか。どんな訂正をするのであれ、投稿規定を守るのは当たり前だろう。「Abstractを訂正する際は、制限語数をはみ出さないように注意して下さい」と言わなければならないのか(バカなのか)。他には、図に関して、前のときに図のタイトルと図の説明を一緒にしたような記述になっているから、「図のタイトルと図の説明をわけて書いてください」と書いたら、図のタイトルは「図1」だけになっていて、残りの記述をすべて「図の説明」としていた。図のタイトルが「図1」って。。これに関しても、他の論文を見て、図のタイトルとか説明をどのようにすればいいのか参考にしよう、とか思わないのか。というかそもそも上級医師にちゃんと見てもらってから提出したのか(TH Lui先生にちゃんと見てもらったのか)。こういうふざけた訂正の仕方を見ると、1回Rejectを食らって出直した方がいいのではないかと思ってしまう。こういう論文にどこまで付き合うか。
2023-9-4:あまりに書き方が稚拙すぎるため、査読に嫌気がさして放っておいた論文の査読の締め切りが今日。もうやらざるを得ない。投稿規定の図の説明の部分を見ると、ほとんど指示がないので、この稚拙な図の説明も投稿規定違反とは言えない。まぁ意味が通らなくもないので、そのまま放置。図の中の記号も小さすぎるが、これも投稿規定には記載がないし、何ならアクセプト後に出版社から指摘があるだろう。こんなところに構っていられない。アブストラクトは投稿規定によれば200語だった!なんと69語もオーバー。これは看過できないので修正するよう指摘。ディスカッションの書き方も言ったらきりがない。イントロダクションで、科学の広い海の中から未解決の特定のテーマを絞り込み、それに対して研究、出てきた結果を一般化可能性の観点から議論し、科学に還元する、という作業をやっている以上、必然的にイントロダクションとディスカッションは逆構造になるべきだが、このディスカッションは、多くのダメなディスカッションと同様、いきなり過去の文献について述べはじめ、「それらの文献と自分たちの論文結果は一致していました」という、他に迎合するような論調となっている。他と食い違わなくてほっとするようなお友達感覚の人は論文なんて書くなよ、などと思いつつも、今までの論文修正の稚拙さからして、いくら言っても大して変わらないだろうから、また、その論文で一番大切なのは結果なので、ここらへんは目をつぶることに。ということで、アブストラクトの大幅な修正以外は、図の説明を少々と、本文の表現を数か所指摘して提出。こんな論文に付き合わされるのもたまったものではないが、その間、SAGEのジャーナル(特にFoot & Ankle International)がアクセスし放題なので、よかったと思おう。
2023-10-2:以前2023-6-21締め切りで査読したJournal of Health Sciencesというジャーナルの論文の手直しが出来上がったので、また査読してくださいのメール。10月3日までに査読をするかどうかの返事をしたのちに、10月10日までに査読を提出してくださいと。今これだけ忙しいのに、それはムリ。「今はとても忙しいのでお断りします。締め切りが11月5日までなら喜んで査読します」の返事。