軽度~中等度の外反母趾に対する手術療法

外反母趾

軽度~中等度の外反母趾に対する手術療法について説明します。

適応

①母趾の曲がったところが靴に当たって痛い。
②母趾が第2趾に乗り上げたり、下にもぐったりして、合う靴がない。

などにより、生活に支障をきたす程度が大きい外反母趾に対して手術適応があります。

レントゲン上の外反母趾角が40°未満の場合が、軽度~中等度の外反母趾に該当します。

手術法の発想

軽度~中等度の外反母趾であれば、M1M2角があまり大きく開いてはいないので、骨頭の位置を少しずらせばよい、という発想から、中足骨のより先端の方で骨切りをする「遠位骨切り術」が選択されます。

主な方法

日本でよく行われているDLMO法とシェブロン法について説明します。

DLMO法(Distal Linear Metatarsal Osteotomy)

DLMO法の原法は、LamprechtとKramerの発表した方法です。これは、中足骨の頸部で楔状骨切りを行い、母趾を立たせたのち、母趾から骨頭までの皮下にブロッキングピンを刺入、骨頭を第2趾の方に押し込んだのち、ブロッキングピンを近位骨片に差し込む方法です。LamprechtとKramerの方法ではまず楔状骨切りをしましたが、これを単に水平骨切りとしたのがGianniniの発表したSERI (simple, effective, rapid, inexpensive)で、これを慶應大の井口先生がDLMO (distal linear metatarsal osteotomy) の名で広めました。

DLMO法

DLMO法の良い点

骨切り1回、ピン1本のみと、手術手技が簡便・低侵襲です。手術時間も早く、治療成績もよく、合併症も比較的少ない良好な術式です。

DLMO法の欠点

中等度の外反母趾に適応をとどめておけば問題のない術式ですが、欲を出して重度にまで適応しようとし始めると、途端に問題のある術式となります。

重度に対してDLMO法を適応した場合、以下のような問題点があります。

  1. 母趾の元通りに戻ろうとする力により、皮膚が裂ける。
  2. ピンを抜いた後、母趾が戻ろうとする力により、外反母趾が再発する。
  3. 上記のようなことがおきないように手術するときには、軟部組織に負荷がかからないよう、骨頭を第1,2中足間に脱臼させるようにして矯正位を取らなければならず、骨癒合に時間がかかる。

1と2は、DLMO法の経験が浅い足の外科医が行った場合の合併症です。3は熟練者が行った場合の合併症です。3のようにする術者は、それでも重度外反母趾に対する標準的術式よりもDLMOの方がよい、という判断から、意図的にこのようにします。それも一つの見解です。

シェブロン法

中足骨の遠位でクサビ形に骨切りし、骨頭を第2中足骨の方にずらし、スクリューで固定する方法です。同時に出っ張った部分(medial eminence)も切り落とします。

シェブロン法の良い点

①突出したmedail eminenceを切り落とす、②シェブロン型に骨切りをすることで骨片同士が噛みこんで安定する、③ゆるんだ内側関節包を縫縮する、といった手術手技が論理的なので、アメリカ人受けする、といったところでしょうか。

シェブロン法の欠点

最大の欠点は、「関節包内をごちゃごちゃいじりすぎ」という点につきます。関節包を切開して侵襲を加えれば当然血行不良が起き、骨頭壊死の可能性が高くなります。実際、有名な Mann’s Surgery of the Foot and Ankleという教科書には、見るも無残な骨頭壊死の写真がたくさん載っています。

こういう術式は、シェブロン法を長くやってきた足の外科専門医がやるのなら問題がありませんが、初めて外反母趾の手術をやるような整形外科医が手を出すような術式ではありません。おそらく手を出すと、上述の骨頭壊死の他、骨切りのエッジが細すぎて骨が割れる、骨の接触部に対するスクリューに余裕がなさすぎてうまくスクリューが効かない、など、さまざまなことが起こると思います。このような「一見よさそうだが、実はピットフォールがたくさんある」という術式が足の外科の領域にはたくさんありますので、足の外科手術をしようと思っている整形外科医は、手術手技書や治療成績をうのみにせず、そのようなピットフォールを見抜く目が必要になります。

軽度~中等度ならばそれほどがんばって矯正しなくてもよくなるのですから、あえて危険を冒してシェブロンのような術式をするよりは、DLMO法のほうが無難だというのが個人的意見です。

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