重度外反母趾に対する低侵襲で簡単な手術法(専門医向け)

外反母趾

従来の重度外反母趾の手術法は、「大きく変形した外反母趾角を軟部組織処置のみで矯正する」ことにより、矯正不足や合併症のリスクをかかえたものでした。

この点を踏まえ、筆者は低侵襲で簡単な術式を考案しましたので、これを紹介します。

局所麻酔、日帰り手術も可能です。

概要

発想の原点

患者さんは、「母趾の付け根の出っ張りが引っ込んでほしい」「母趾がまっすぐになってほしい」と思っています。この術式では、これらの要求を満たすことを発想の原点としています。

方法

出っ張りをへこませて母趾をまっすぐに向ければよいのですから、①出っ張ったところの下で骨を切り、②母趾をまっすぐにした上で、③出っ張りを押し込む」とするだけです。

適応

軽度外反母趾から超重度外反母趾(60°<HVA<90°)まで、すべての外反母趾に適応できる術式です。

手術法の詳細(専門医向け)

準備

・患者さんを仰臥位にして、立膝の状態で膝下に側板をあてがい、足底が手術台につくようにします。
・ターニケットを準備します。
・透視装置と透視モニターは患側におき、術者は健側に座ります。

中足骨の処理

皮切・展開・骨切り

・第一中足骨頸部に、骨軸に対して75°、長さ1.5cmの皮切をおきます。

・中足骨頸部を露出させます。

・骨膜を骨軸に対して垂直に切開し、幅5mm程度で骨膜を剥離します。

・透視を見ながら、第一中足骨頸部に対し、7,8mmの底を内側におく楔状骨切りをします。
※骨軸に対して斜めの骨切りを先にしたほうがやりやすくなります。

中足骨の骨切り

・第一中足骨頭の内側の皮下にMTP関節のレベルから逆行性に2mm K-wireを刺入し、それを外転しながら骨頭部を押し込んで基節骨と第2中足骨軸が平行になるように、骨頭を整復します。

※骨頭の整復の指標は、「母趾が見た目まっすぐ」になった位置としても同じです。

※その位置では、期せずして、種子骨も整復されています(種子骨を整復するために中足骨を外旋させるような操作は必要ありません)。

※「母趾が見た目まっすぐ」にならないときは、中足骨を2mm環状骨切りして短縮させます。

骨頭の整復

K-wire固定

・骨頭が整復されたら、そのままK-wireを近位骨片髄腔の中を基部まで進めます。

・さらに、近位・遠位骨片を1.8mm K-wireで、骨頭と第2中足骨頸部とを1.6mm K-wireで固定します。

・骨頭が背屈していないか直視と透視で確認します。

K-wire固定

基節骨の処理

皮切・展開・骨切り

・続いて、基節骨の遠位1/3付近の内側に、骨軸に対し75°の角度の1.5cmの皮切をおきます。
・基節骨を露出させ、骨膜を皮切方向に切開、剥離します。

・中足骨と同様、内側に2mmの底を置く楔状骨切りをします。

基節骨の骨切り

整復・K-wire固定

・母趾の先端が見た目まっすぐ(末節骨と第2中足骨とが平行)の位置に整復します。

・1.8㎜ K-wireでcross pinningします。

・最後に透視で見て、正面像、側面像でアライメントに問題がないか確認します。
・創は生食洗浄後、皮膚だけ5-0ナイロンで縫合します。

K-wire固定

術後の処置

・ピンはベンダーで曲げたのちに切り、根元をステリーストリップで皮膚に固定します。
・ピンの皮膚から出ている部分に短冊状に細く切ったガーゼを巻き付け、皮膚への食い込みを予防します。
・ピンや創は18Gで穴をあけたフィルムを貼っておきます。
・フィルムはそのまま貼りっぱなしにしておき、ピン抜去時にはがし、抜糸します。

後療法

・術直後より、前足部免荷装具での歩行を開始します。

・退院は、前足部免荷装具での歩行が安定したら許可します。

・基節骨のピンは4週で抜去、ほかのピンは6週で抜去します。

・術後6週間まで前足部免荷装具を使用します。

・術後10週からは制限なく活動を許可します。

術前、術直後、術後6か月のレントゲン

特長

手技が簡単

中足骨遠位骨切りと基節骨骨切りを行い、K-wireで固定するだけですから、手技が簡単です。手術時間も30分程度で行えます。

低侵襲・低リスク

母趾MTP関節周囲の軟部組織の処置がないため、骨頭壊死や内反母趾の合併症を起こすリスクが少なくなります。

微調整が効く

K-wireは力を加えれば微妙に曲がってくれますので、K-wireでの固定によるこの術式では、最後に骨の位置を微調整することができます。1㎜の矯正にこだわった手術が可能です。

超重度外反母趾でも対応可能

さすがにHVAが90°近くなると、遠位骨切りをして中足骨頭を押込みながら母趾を起こしても、母趾をまっすぐなポジションに戻すことができません。そのときには、中足骨頭の矯正により、最大限母趾を起こした上で、基節骨の骨切りにより、母趾をまっすぐのポジションに矯正します。2つの骨切りが相補的に作用することで、超重度外反母趾に対しても対応が可能になります。

超重度外反母趾

筋のバランスが取れる

本法での種子骨の整復の様子からわかること

遠位骨切りをして、母趾をまっすぐにしながら中足骨頭を押し込んでいくと、種子骨が自然と整復されます。中足骨のねじれと種子骨の脱臼は、種子骨が軟部組織に引っ張られることで起こっているので、軟部組織を温存しながら骨頭や母趾のアライメントを戻せば、種子骨は自然に戻るのです。

これは、「見た目、母趾がまっすぐ」のポジションでは、母趾外転筋、母趾内転筋、短母趾屈筋などの母趾MTP関節まわりの筋群が、母趾をまっすぐに保たせるのに最もよいバランスをとるため、結果、種子骨も整復される、と理解することができます。

従来の術式では自然な種子骨の整復ができない

従来の術式では、母趾内転筋をいきなり切ることで、母趾まわりの筋のバランスが破綻してしまっています。その結果、「種子骨を整復するために、中足骨をねじりながら戻す」などという、おかしな整復が行われています。最初に筋を切ってしまうから、筋のバランスが教えてくれる骨頭の良好な整復位置がわからなくなり、その結果「中足骨をねじりながら整復する」などということをしなければならなくなるのです。

新しい術式と従来法との比較

以上をまとめ、重度外反母趾に対する従来の術式と本術式とを比較しました。

従来の術式本術式
手術手技近位骨切り・軟部組織解離遠位骨切り・軟部組織温存
侵襲
手術時間長い短い
矯正力限界あり限界なし
筋バランスへの配慮なしあり
合併症重篤なものあり(骨頭壊死、内反母趾)重篤なものはなし

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