筆者の考案した術式です。治療成績も良好です。現在の手術療法が、一般的には観血的種子骨切除術、それよりまだましで関節鏡下種子骨切除術、という状況を考えると、低侵襲で種子骨を温存できるこの術式は、今後主流になりうる術式と考えています。
手術手技
母趾MTP関節鏡の詳しい説明は、別記事「母趾MTP関節鏡の方法」をご覧ください。
準備
・患者さんは仰臥位にします。患者さんの足とベッドの遠位端とは 50 cm 程度離します。
※ベッドの遠位端に設置する牽引器のバーが関節鏡操作の妨げにならないようにするためです。
・患側に、関節鏡モニター・透視モニター・透視装置をおきます。術者は健側に立ちます。
・ベッドの遠位端に牽引器をつけるバーを設置します。
※筆者は外科の開胸器(Kent Retractor;高砂医科)を利用しています。
※バーは不潔野で取りつけ、清潔野にしたのちに、滅菌した牽引器を取りつけます。
・下腿から足先までと腸骨採骨部を清潔野とします。
自家骨の採取
皮切・展開
・予定された皮切部にE入り1%キシロカインを 5-8 ml 局注します。
・腸骨上に 2 cm の皮切を開け、鈍的に展開、腸骨を露出させます。
・骨膜を切開・剥離し、皮質骨を露出させます。
※まだ腸骨の骨端線の閉じていない中学生の場合、骨端核を同様の手技で開くと、皮質骨なしにいきなり海綿骨が露出します。
自家骨の採取
・OATS (Arthrex社)の径 6 mm で、長さ 15 mm の自家骨を採取します。
※OATSを用いる際、皮切から、長さ 15 cm 径 1.6 mm の K-wire 2本を、腸骨の外板と内板にそれぞれ沿わせて入れておくと、筋鈎の代わりになると同時に、OATSを打ち込む方向のガイドとなって便利です。
人工骨の充填・修復
・空いた穴には、人工骨(β-TCP)をほぼ骨孔が埋まる程度に充てんします。
・採取した自家骨は、上部が皮質骨、下部が海綿骨になっています。上部の皮質骨だけを平ノミで落とし、人工骨を詰めた腸骨の骨孔に蓋のようにかぶせ、軽くたたいて平らにします。
※腸骨に段差が生まれると愁訴を残しますので、段差ができないよう、注意して人工骨を埋めます。
※骨端線の閉じていない中学生では、皮質骨の蓋をする必要はありません。
・皮下を3-0PDSで、皮膚を4-0ナイロンで縫合します。
関節鏡
・採取した海綿骨は、助手に最大限に細かく粉砕しておいてもらいます。その間、術者は関節鏡に移ります。
牽引
・基節骨中央に 1.8 mm K-wireで穴をあけ、0.9mmソフトワイヤーを通します。ソフトワイヤーが食い込まないよう、母趾にガーゼを巻いたのち、ソフトワイヤーの端同士をねじって結び、リング状にします。そのリングに牽引器のフックを引っ掛け、牽引します(下の写真)。
マーキング
・透視で母趾MTP関節の正面像を見て、関節縁の両側に、背内側ポータルと背外側ポータルをマーキングします。
・側面像を見て、種子骨の前後に、遠位種子骨ポータルと近位種子骨ポータルをマーキングします。
※背外側ポータルは、MTP関節底側の滑膜の増生が激しいときに用います。
※近位種子骨ポータルの位置は、目安として記入しておくものの、実際は種子骨分裂部の位置によって多少ずれます(近位種子骨ポータルの作り方は後述)。
ポータル作成
背内側ポータル
・予定された背内側ポータルから 18 G 針を関節内に挿入、場所がよければ、皮膚を先刃で5 mm 切開、直モスキートで鈍的に関節包を貫き、押し広げます。続いて関節鏡を挿入します。
・中足骨と基節骨を両側に見る「スタートポジション(→「母趾MTP関節鏡の方法」)」に視野をおきます。
※鏡視中、どこを見ているのかわからなくなったら、いつでもこのポジションに戻るようにします。
背外側ポータル
・続いて、関節の下側を観察し、滑膜の増生が激しかったら、背外側ポータルを作成、同部位から電気メスを挿入し、底側の滑膜を焼灼します。
遠位種子骨ポータル
・関節の底側の視野がある程度確保されたら、予定された遠位種子骨ポータルの位置から、18G針を関節内に向けて刺入します。視野に現れたら針を抜き、先刃で関節包を貫きます。
※この部位は関節内に余裕がないところですので、関節包をしっかりと切開することで、スムーズに器具を挿入できるようにします。
・関節内の底側に滑膜の増生が激しいときには、このポータルから電気メスを挿入し、滑膜を焼灼します。
※強剛母趾では滑膜の増生が激しいですが、母趾種子骨障害ではごくわずかです。
・内側種子骨を見つけます。
※内側種子骨を見つけるためには、写真のように電気メスで関節包を押し下げたり、中足骨の形状を手掛かりにしたりします。
※見つけた種子骨が内側か外側かわからないときには、透視で確認します。
・関節鏡を遠位種子骨ポータルから入れ直します。
・種子骨を観察します。分裂種子骨の表面は、軟骨の一部の凹みとして分裂部がわかることもあれば、軟骨下骨が露出してはっきりと分裂部がわかることもあります。
近位種子骨ポータル
・内側種子骨の脇の内側ガーターに視野を持っていきます。
※この作業はとても難しいです。
※種子骨と関節包とは白い軟部組織で連続していますので、どこまでが種子骨かわかりにくいです。種子骨と関節包との境界は、盛り上がりの形状によって判断します。
・透視を見ながら、カテラン針を種子骨分裂部の延長線上に置き、分裂部に向けて刺入、関節鏡を見て、関節内に針が現れるようにします。
※透視の正面像で、カテラン針が確かに種子骨分裂部の延長線上にあるも、関節内に針が見えてこない場合は、針の鉛直方向でのずれが原因ですので、そこを調節します。
・関節内に針が現れたら、針を抜き、その部位を先刃で5 mm 切開、そのまま関節包も先刃で切開します。
※関節包が十分に切開されていないと、器具の導入がきわめて困難になります。
種子骨分裂部の処置
分裂部の不安定化
・2 mm K-wireを近位種子骨ポータルから刺入し、分裂部に進めます。透視の正面像で方向を見ながら、関節鏡で確かに分裂部に入っていることを確かめます。K-wireをねじりながら、分裂部が不安定になるようにします。
※関節鏡下に分裂部の方向を決めようとすると見誤りますので、透視下に見た方向を信用します。
※分裂部の内側縁にK-wireが当たったら、術者は主に透視を見るようにし、助手には関節鏡を持ってもらいながら、K-wireの先端が軟骨を突き破っていないかどうか、確認してもらいます。
・K-wireを分裂部の外側縁まで進め、分裂部が十分に不安定になるようにします。
分裂部の郭清
・不安定になった分裂部に、2mm骨用シェーバーを挿入し、分裂部の骨を薄く削ります。
※2mm骨用シェーバーは分裂部にちょうど入る太さですので、そのまま刃先を近位骨片、遠位骨片それぞれに向け、分裂部全体を動かすようにして削ります。
※適宜軟部用シェーバーも用います。
・透視で分裂部の開大が見られたら、関節鏡を近位種子骨ポータルから挿入し、分裂部を観察します。分裂部に面する両側の種子骨片の海綿骨から出血が見られていることを確認します。まだ線維性組織が充満し、出血が見られていないようなら、軟部シェーバーや骨用シェーバーで郭清を続けます。
自家骨移植の準備
・2mm骨用シェーバーの外筒からシェーバーの刃を抜きます。
※シャーレに入った海綿骨に外筒を押し当て、先端に付着した海綿骨を、シェーバーの刃を用いて外筒に押し込んでいきます。
※粒が大きい海綿骨や、押しつぶして硬くなった海綿骨を押し込むと、移植の時に押し出しにくくなります。
※比較的粗に、種子骨の長さの1.5-2倍程度の長さを充てんします。
※外筒に詰めた移植骨の長さを、透視で確認します。
自家骨移植
・海綿骨を充てんした2 mm 骨用シェーバーを、近位種子骨ポータルから挿入します。
・関節鏡と透視を見ながら、骨用シェーバーの先端が分裂部の外側縁に到達するまで、骨用シェーバーを進めます。
・シェーバーの刃を押しながら、外筒を分裂部から引き抜きます。
・はみ出た海綿骨をシェーバーの刃で押し込んで整えます。
確認
・透視の斜位像で、分裂部に海綿骨が移植されているのを確認します。
※正面像では、分裂種子骨は底側が皮質骨でおおわれているためはっきり写るのに対し、移植海綿骨は皮質骨に比べて骨密度が低く、かつ中足骨とも重なっているため、よく写りません。
閉創
ポータルは5-0ナイロンで皮膚のみ縫合します。
後療法
・術後6週間、前足部免荷装具を履き、踏み返さないようにします。
・背側ポータルとextension hoodとの癒着を防止するため、passiveでの母趾の屈曲を行います。癒着していないか確かめるため、activeでの背屈を確認します。
・術後6週後より、通常の歩行を許可します。
・術後2か月半程経過して、レントゲン上骨癒合が期待できる像が見られたらCTを撮影し、詳細に骨癒合の状態を調べます。問題なければジョギングを開始します。
・2週間程度かけて制限のないスポーツ復帰を許可します。
治療成績
2020年12月現在、18人が術後4か月以上経過しています。男11人、女7人。17人が内側種子骨で、1人が外側種子骨でした。
・日常生活上の動作に関しては、全員問題なく復帰しました。
・18人中17人がスポーツ競技者で、17人全員がスポーツに復帰しました。15人が制限なしでの復帰、2人が制限付きの復帰(1人がかなりの、1人がわずかな制限)でした。かなりの制限だった1人は、最初の症例かつ唯一の外側種子骨症例で、のちに種子骨切除術を行いました。