中足骨短縮症の一期的手術療法

中足骨短縮症

中足骨短縮症の一期的手術療法について説明します。一見、ただ骨切り部に骨を植えるだけの簡単そうな手術に見えますが、いろいろなピットフォールを含んだ、難易度の高い手術です。

適応

中足骨短縮症のうち、矯正が1cm以下でよいものが適応です。1cm以上の矯正は一期的手術では不可能ですので、仮骨延長法を検討します。

事前に患者さんに伝えておくべきこと

第1中足骨短縮症と第4中足骨短縮症では、難しさの性質が異なります。

第1中足骨短縮症では長さの獲得が難しい

第1中足骨短縮症では、一期的手術による長さの獲得が難しいことは伝えておくべきです。それは、屈筋の強さが母趾はとても強いことによります。

第4中足骨短縮症では1,2mmの矯正不足でも目立つ

第1中足骨短縮症では母趾と比較されるのは第2趾だけですので、多少の矯正不足は許容されます(人によって第2趾よりも母趾が短い人は多いので)。それに対し、第4中足骨短縮症では、第4趾と比較されるのが第3趾と第5趾で、両足趾に対してちょうどいい位置にいることが要求されますので、2mmの矯正不足は極端に矯正不足に映ります。軟部組織の状態や、基節骨短縮の合併、そもそもの第4趾の発育不良、中足骨の細さによるK-wireの打ちにくさなどにより、1, 2mmの矯正不足もやむを得ないことも起こりえます。その点を事前によく伝えておく必要があります。

屈趾はリハビリでしか改善しない

屈筋腱の強さにより、術後、患趾は健趾に比べて屈曲しています。それはリハビリでしか改善されないことを事前に伝えておきます。

手術の注意点

第1中足骨と第4中足骨の難しさの違いに注意

上にも述べましたが、第1中足骨と第4中足骨では、難しさの性質が異なることに注意すべきです。第1中足骨はそもそも伸ばすのが難しく、第4中足骨ではわずかな矯正不足でも目立つ点が難しいです。第1中足骨短縮症の場合は長母趾屈筋腱の腱延長も検討します。

プレート固定はおそらくうまくいかない

中足骨短縮症の手術での合併症でもっとも重篤なものは、底屈変形癒合です。これは強力な屈筋腱によって引き起こされます。手術の際には、屈曲変形癒合の予防に努めた工夫が必要になります。縦方向のプレート固定で済むと思っていると痛い目に遭います。

基節骨の短さにも注意を

中足骨短縮症の方は、同時に基節骨も短くなっていることがあります。そのため、中足骨の延長で十分な矯正が果たせるのか確認する必要があります。場合によっては、基節骨への骨移植が必要なこともあります。

手術方法

ここでは、第4中足骨の一期的自家骨移植法について載せます。

体位・準備

・患者さんは仰臥位にします。

・ターニケットを準備します。

・下肢は立て膝にして、膝下を側板で支え、足底が手術台につくようにします。
※この体位は、足部の手術では標準的な体位で、透視による評価がやりやすくなります。

・腸骨採取と下腿を清潔野とします。

手術の体位

自家骨採取

・腸骨よりOATS (Arthrex社)の径8㎜で海綿骨を採取します。

・採取した部位には人工骨を充てんし、最後にOATSで採取した骨の皮質骨の部分で蓋をします。
※この部位に段差ができると愁訴の原因になるので注意します。

展開・骨切り

・ターニケットを開始します。

・第4中足骨の骨幹部中央~やや遠位にかけて、外側縁に2cmの縦皮切をおきます。

・透視で確認しながら、第4中足骨を同定、骨幹部の中央で骨膜を縦切開し剥離します。
※中足骨の展開は、ちょっとしたコツが必要です。やみくもに中足骨を探すと、骨間筋が顔を出して手術がやりにくくなります。腱が見えてきて骨に到達しそうになったら、腱の「真下」の白い部分に18G針を当てて、それを透視で確認し、確実に骨膜だけを切開するようにします。骨間筋の筋膜も白いので、そちらを切開しないよう注意します。
※中足骨の骨膜を縦切開を入れても基本的に延長を阻害しませんが、阻害しているようでしたら少し横に切れ目を入れます。

・骨幹部中央で骨切りします。骨切りは軸に対して垂直にします。
※皮切の近位端付近で骨切りすることになることに注意します。そうでないと、骨切り部を開大させ、移植骨を植える作業がやりにくくなります。

骨移植のスペース作成

・第4趾を最大牽引します。これで第4中足骨頭はある程度いい位置まで来ますが、足りないようなら、アイスピックを髄腔に差し込んで、軸方向に骨頭を押します。
※アイスピックは、ピンポイントで小骨に対して圧をかけられるので、足の外科手術で大変重宝します。

・透視で正面像を見て、徒手的な牽引やアイスピックでの押込みで骨頭を最適な位置にキープしたまま、第5,4,3中足骨頭をまずは1.6㎜ K-wire で1本固定します。
※第4中足骨頭が極端に下に突出しないよう、第3と第5中足骨頭の位置と合わせるようにします。

・次に斜位像を見て、骨軸のアライメントを合わせながら、さらにもう1本、K-wireで中足骨頭を固定します。
※中足骨頭を1本でしか固定していないときは、そのピンを軸として中足骨頭は回転できますので、斜位像でのアライメントを合わせることができます。


※2本のK-wireで中足骨頭の位置を良好に保持することが、中足骨のアライメントを良好にキープする最大のコツです。これをしないでただ自家骨移植を行い、軸方向に何かしらのデバイスで固定すると、屈筋腱の強さで屈曲変形が進み、骨頭が足底に当たるmetatarsalgiaが出現します。

骨移植

・海綿骨を中足骨の骨切り部に移植します。とくに断端部に骨膜がめくれこんでいないか注意します。2-3mm大きい移植骨の近位側をはめておき、はまっていない端をエレバトリウムで押しつぶしながら押し込んでいくと、密に充填できます。移植骨の中足骨軸からのちょっとしたずれは、エレバトリウムで軽く押すことで調整できます。
※骨膜がまくれこむと、術後、移植骨と中足骨との連続性がなかなか出現せず不安になると思います。
※ちょうどいい大きさの移植骨にすると、若干隙間が空き、骨癒合が遅れます。

横止めのK-wireによって、中足骨頭は底側を向くことなく良好な位置にキープされています。縦方向のK-wireによって中足骨のアライメントが整えられています。骨移植は、第5中足骨側ははみ出ていますが、第3中足骨側は若干間隙が見られます。その結果、骨癒合は、第5中足骨側はすみやかだったものの、第3中足骨側は遅くなりました。

・足趾の先端から中足骨の基部まで、1.6 ㎜ K-wire (髄腔の太さにより1.4 mm)を刺入します。刺入の際は、一つ一つの骨ごとに確実に中心を通るようにします。
※これも、足趾列にK-wireを通すコツです。いっぺんに通そうとすると、APの軸から外れたり、側面像での各骨のアライメントがばらばらになったりします。
※移植骨の側面像が、中足骨のアライメントからはずれていないことを確認します。

・横止めのK-wireは曲げて短く切り、皮下に埋めます。
※屈曲変形を起こさないよう長く体内においておくためです。

後療法

・術後は6週前足部免荷装具を使用します。
・足趾を貫いているK-wireは6週で抜去します。

・横止めで皮下に埋めてあるK-wireは、抜けてくることがあるので、押し込むよう指導します。

・移植骨が骨切りした中足骨と十分に一体化したら、横止めK-wireを抜釘します。

・屈筋腱の強さによって足趾は屈曲位になっていますので、背屈のリハビリをしっかりやってもらいます。リハビリがしっかりできれば、屈趾傾向は改善されることを伝えます。
※これは年齢が若ければ若いほど改善が早いです。自験例では、15歳だと数週で改善しましたが、25歳だと数カ月~1年かかりました。

プレート固定がなぜダメか

中足骨を長軸方向に延長したのだから、それに沿ってプレート固定したらいいのではないか、とは整形外科医なら誰でも考えそうなものですが、それだとダメな理由を以下にあげます。

合うプレートがない

強度の強いプレートだと、分厚く穴の間隔が広いため、骨切りして分断した骨と移植骨に高々1本しかスクリューを打つことができず、固定力不足になります。

また、手外科用のスクリューが細く孔の間隔が狭いプレートだと、たくさん骨にスクリューを打てますが、強度が弱く、屈筋腱の力に負けてプレートが曲がってしまいます。

一般的に、足の外科では、プレートは優れたデバイスではないことは認識しておいた方がよいと思います(「足の外科手術でK-wireがプレート固定よりも優れているこれだけの理由」をご覧ください)。

鉛直方向の制動ができない

足の外科用のロッキングプレートであろうと、手外科用のスクリューがたくさん打てるプレートであろうと、中足骨の軸方向に当てたプレート固定には、屈筋腱に打ち勝つだけのsaggittal方向の制動力に欠けるため、中足骨の屈曲変形癒合がおきてしまいます。

ロッキングプレートでは各骨片に打てるスクリュー数が少ないため、骨がスクリューから引っこ抜けるように転位します。手外科用のプレートでは、プレートが折れます。

骨癒合の評価ができない

プレートが中足骨と移植骨全体を覆ってしまうため、骨癒合評価ができません。そのため、骨癒合が不十分な時期に抜釘をしてしまうと、そこから中足骨の屈曲変形癒合がおこります。

以上より、プレート固定ではなく、上述のようなK-wireで手術するのが適しています。

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