強剛母趾の手術療法について説明します。特に、一般でよく行われているカイレクトミー(関節唇切除術)と関節固定術、そして中足骨骨切り術について説明します。
手術の適応
保存的治療を行ってもなお痛みが軽減しない方に対しては、手術療法の適応となります。
カイレクトミー(関節唇切除術・骨棘切除術)
適応
軽度強剛母趾に適応とされています。
方法
中足骨頭の上にある骨棘と、中足骨頭の上1/3を切り落とす手術です。
問題点
本来は骨棘を削るだけだった
「強剛母趾では母趾が反らしにくい」→「中足骨頭の上に余計な骨棘がある」→「この骨棘がジャマをして母趾が反らしにくいのではないか」→「これを削ろう」という発想から生まれた術式です。骨棘が関節を縁取る唇のようなので、これを切るという意味で「カイレクトミー(関節唇切除術)」と名付けられました。
中足骨頭の1/3まで削る術式になった経緯
ところが、この骨棘だけを削ってもよくならない人が多発したため、1978年にMannは「カイレクトミーでは、症状を改善するためには中足骨頭の上1/3まで削り落とす必要がある」という論文を発表し、それが継承されて現在にまで至っています。
なぜ中足骨の上1/3まで削らなければよくならないのか
荷重しながら母趾を背屈させたレントゲンを撮影すると、基節骨の上縁は、中足骨頭の上1/3の位置で衝突しているのがわかります。それゆえ、この部分まで手術で削り落とさないと、荷重歩行時に骨同士のぶつかりが衝突されず、痛みが解消されません。
もはや低侵襲とは言えない手術
本来は「骨棘のみを削る」はずだったカイレクトミーですが、「中足骨頭の上1/3を切り落と」さなければ症状が改善しません。関節面の1/3も失わなければよくならないという、もはや決して低侵襲とは言えない術式となってしまいました。
あとを絶たない「削り不足」
ところが、実際カイレクトミーの時に中足骨頭の上1/3を切り落とすのは、かなり勇気のいることです。その結果、骨棘と中足骨頭の上をほんの少し削っておしまいにするために、症状がよくならない、という方が出てしまいます。
筆者のところにも「ほかの病院でカイレクトミーを受けたがよくならない」といって受診される方が後を絶ちません。その「ほかの病院」は、足の外科で「非常に有名な病院」がほとんどですので、足の外科専門医も、なぜ中足骨頭の上1/3まで削らなければ症状がよくならないのか、よく理解していないのではないかと推察します。
いいかげんこの手術はやめてほしい
カイレクトミーは、本来、軽度強剛母趾に対して、「骨棘だけをちょっと削る」だけの術式でしたが、歴史的経緯の中で「中足骨頭の上1/3まで削」らなければよくならないことがわかり、その結果、決して低侵襲な手術ではなくなってしまいました。
しっかりと中足骨頭まで削れば軽度外反母趾にしては侵襲が大きすぎであり、骨棘を削るだけではよくならず、といずれにしてもよくありません。歴史的経緯でいまだに残っている「負の遺産」としか言いようがありません。
以下に説明する「中足骨骨切り術」により、ほとんどのケースでよくなりますので、いいかげんこの手術はやめてほしいものです。
関節固定術
「もはや骨の変形も強く、関節が動くと痛いのだから、動かなくすればいい」というのが「関節固定術」です。強剛母趾の手術療法はカイレクトミーと関節固定術だけ、と認識している足の外科医も多いため、いまだに広く行われている手術です。
適応
重度強剛母趾に適応とされています。
方法
基節骨と中足骨とを癒合させることで、関節が動かないようにします。
問題点
欧米とは違う日本人の生活
靴をはく習慣の欧米では、関節固定されてもさほど困りませんが、家の中では靴をはかず、しゃがんだり背伸びをしたりする日本人にとって、関節固定は欧米人が感じる以上に支障が出ます。そのため、安易に欧米の治療アルゴリズムを踏襲するべきではありません。
やるならちゃんと手術すべき
やむを得ず関節固定をしなければならないのでしたら、よい肢位で固定すべきです。関節固定時の注意点としては
①母趾が浮指にならないようにする
②IP関節を曲げたとき、第2趾とオーバーラップしないようにする
③関節固定のデバイスをもしプレートとするなら、伸筋腱に影響しないように注意する
などを気を付けなければなりません。
①②が満たされないと踏ん張りがききにくく、③をいい加減にすると伸筋腱がプレートにより断裂する可能性があります。③に関して、筆者はK-wire固定のほうがずっとよいと考えています(プレート固定だと母趾を接地させるための微調整が困難なため)。
いいかげんこの手術もやめてほしい
「ほかの病院で関節固定といわれたが嫌なのでこちらに来た」という方が、筆者の外来に多数いらっしゃいます。末期の強剛母趾のレントゲンを見れば、関節固定を考えたくなる整形外科医・足の外科医の気持ちもわからなくはありませんが、末期の強剛母趾においても下記の中足骨骨切り術で十分よくなりますので、安易に関節固定を選択するのはやめてほしいものです。
中足骨骨切り術
歴史的経緯
中足骨骨切り術は、じつは強剛母趾の手術法とは別のところから発生してきた手術法です。中足骨の長い人で母趾MTPが痛い人に対し、中足骨を短くしたら動きがよくなり痛みが減ったとか、外反母趾の骨切り手術をしたら中足骨が上がってくっついてしまい、親指がそらせにくくなってしまったので、再手術でずり下げたらよくなった、といった、別の症例からこの術式は生まれてきました。
この術式を強剛母趾に当てはめたらよくなるようだ、ということが1980年ころからわかってきて、現在に至ります。ヨーロッパの整形外科医やアメリカの足病医のあいだでは広く行われていますが、歴史的な経緯によりいまだにカイレクトミーを捨てられないでいるアメリカの整形外科医や、アメリカ整形外科の治療体系は常に正しいと思っている日本の整形外科医の間では、中足骨骨切り術は十分に広まっていません。私が100人以上この手術をやってきた治療成績からすると、初期の強剛母趾から末期の強剛母趾まで、幅広く適応のあるすぐれた術式です。
方法
第一中足骨を骨切りの上、中足骨頭を近位底方にずらします。
今まで発表された中足骨骨切り術は、同時にカイレクトミーも行われていたため、中足骨骨切り術が有効なのか、カイレクトミーが有効なのかわかりませんでしたが、筆者の考案したカイレクトミーなしの中足骨骨切り術の治療成績も良好であることにより、純粋に中足骨骨切り術が強剛母趾に対して有効である証明になりました。
方法の詳細については、別の記事「強剛母趾に対する中足骨骨切り術【簡単】」で説明します。
症状が改善するメカニズム
中足骨頭が斜め下にずり下がることによって、母趾に付着する軟部組織がゆるみます。また、中足骨頭が下に下がることにより、母趾が中足骨頭を乗り越えやすくなります。
強剛母趾の手術は中足骨骨切り術一択でよい
筆者の100例以上の自験例では、中足骨骨切り術は、軽度から重度まであらゆる強剛母趾に対して有効です。カイレクトミーは中足骨頭の上1/3を削る決して低侵襲の手術でないことや、関節固定術は侵襲の大きな手術であることを考えると、強剛母趾に対しては、この中足骨骨切り術一択でよいと考えています。