重度の外反母趾に対する手術療法

外反母趾

重度の外反母趾に対する手術療法のコンセプト、主な方法、問題点などを説明します。

手術法の基本的発想

重度外反母趾の手術法は、「近位での中足骨の位置の矯正」と、「軟部組織の処置による外反母趾角の矯正」の組み合わせで行われます。

近位での中足骨の位置の矯正

重度外反母趾では、中足骨が大きく開いているため、これを骨切りによって矯正します。

※中足骨は長いので、手前のほうを近位、足指に近いほうを遠位、と表現します。

重度外反母趾では、開大した中足骨(M1M2角)を、骨切りで矯正します。

軟部組織の処置による外反母趾角の矯正

母趾の付け根で曲がった部分(外反母趾角)は、軟部組織の処置で矯正されます。

主に行われるのは以下の処置です。

・まず、突っ張った内転筋の切離して、亜脱臼した関節を整復します。
・次に、内側の関節包を切開、突出した内側の骨を切除したのち、切開した関節包を縫縮します。

重度外反母趾では、大きな外反母趾角を、軟部組織の処置で矯正します。

主な術式

「近位での中足骨の位置の矯正」の方法の違いにより、いくつかの術式があります。比較的よく行われているのは、Mann変法、Scarf法、Lapidus法です。それぞれ細かい一長一短はありますが、うまく行えば特に差はありません。

Mann変法

中足骨の近位で骨切りし、近位骨片を支点に遠位骨片を回転させ、中足骨の向きを矯正する方法です。

骨切り部の接触面積が小さいこと、骨切り後の近位骨片が小さくなることにより、強固な固定が難しく、背屈変形癒合を起こすことがあります(ロッキングプレートを用いれば強固な固定にはなりますが、足の外科手術におけるプレート特有の問題が生じます。詳しくは記事「足の外科手術でプレート固定よりK-wireが有効なこれだけの理由」をご覧ください)。固定法の選択や固定材料の設置位置に慎重さが要求されます。

Mann変法。中足骨の近位で骨切りし、骨片を回転させて矯正します。

Scarf法

第1中足骨を長く水平にスライスし、横にずらす方法です。

垂直方向の変形癒合を予防するため、中足骨骨切りの接触面積を大きくしています。

2枚に割った中足骨をずらす方法のため、接触面積が大きいように見えますが、実はそれほど安定度は高くありません(2枚のかわらを横にずらして重ねるとぐらぐらするのと似ています)。そのため、端の皮質骨の残し方に注意しながら骨切りするなど、ピットフォールの多い術式です。

Scarf 法

Lapidus法

足根中足関節(tarsometatarsal joint)を固定(骨性癒合)することによって、強力に第1中足骨の向きを矯正する方法です。

中足骨の基部の関節固定を行うため、強固な固定が得られる反面、硬い靴を履くときに足が入りにくい、など、若干の不都合が残ります。

Lapidus 法。足根中足関節を癒合させて固定します。

術式の問題点

軟部組織処置のみに頼った外反母趾角の矯正

重度外反母趾に対するこの術式の大きな問題点は、基節骨と第一中足骨とがなす外反母趾角の矯正が、軟部組織の処置のみに頼っているという点です。

変形が大きくなればなるほど矯正が難しく、軟部組織の処置のように矯正力の弱い処置では対応しきれなくなります。

大きな変形を何とか矯正しようと無理をするほど、ますます軟部組織への損傷を加えていかなければならず、合併症のリスクを上げてしまいます。

軟部組織の処置に頼った外反母趾角の矯正。軟部組織の処置という弱い矯正力で、重度外反母趾の強い変形を矯正をしなければなりません。

軟部組織処置に伴う合併症

軟部組織処置に伴う合併症には以下のようなものがあります。

骨頭壊死

中足骨頭への血行は、関節包からの血流と、骨の中の血管により供給されます。骨切りをすれば、骨の中の血管は切れ、一時的に骨の中の血行は途絶えます。骨内の血行が再開通するまでは、関節包からの血液の供給のみが、骨頭への血流を支えることとなります。

ところが、そこで関節包にまで侵襲を加えると、中足骨頭に行くすべての血液のルートを損傷することになり、骨頭壊死が起きる危険性が高まります。

骨頭壊死。血流が途絶え、骨頭が変形します。

内反母趾

内転筋を切ることにより、母趾を根元で支える筋のバランスが破綻します。その上で、骨頭の位置を外側にもっていきすぎたり、中足骨頭の突出部分(medial eminence)を削りすぎて母趾を支える骨の内側を失いすぎたりすると、内反母趾変形を起こすことがあります。

内反母趾。外転筋の解離と、内側骨頭の切除により、母趾が内に変形しています。

外反母趾の残存

軟部組織は骨に比べればやわらかいため、それだけ矯正力は劣ります。大きく変形した外反母趾角を軟部組織の処置のみで行うというのはそもそも無理があるため、外反母趾が残存することもまれではありません。

術式の発想はそれでよいのか

レントゲンから発想した術式

重度外反母趾に対する、「第一中足骨の近位での調整 + 母趾MTP関節周囲の軟部組織の処置」という手術法は、「外反母趾のレントゲン上のパラメータを矯正する」という観点で、方法を決めています。

  • 第1中足骨と第2中足骨とが開大しているから、第1中足骨を根元から矯正する。
  • 第1中足骨と基節骨がおおきく曲がっているから、つなぎ目の軟部組織を解離してまっすぐにする。

しかし、その結果、重度であれば母趾MTP関節での変形は大きいにもかかわらず、軟部組織処置のみで矯正せざるを得なくなり、軟部組織損傷に伴う骨頭壊死や、筋バランスの破綻による内反母趾などの合併症を引き起こすリスクが上がってしまいます。

これらの術式は、患者さんを抜きにして、レントゲンばかりを眺めて考案したような術式な気がしてなりません。レントゲンさえきれいになっていれば、軟部組織に多大な損傷を加えて、患者さんをさまざまな合併症のリスクにさらしてもいいのでしょうか。変形が強く、案の定それらの合併症が起きたら、それは変形が強すぎるからだ、とでも言いたいのでしょうか。

リスクを最小に、患者さんの利益を最大に

変形が大きくなれば、それだけ元には戻せない要素が出てくるのは当然です。しかしその中で、どこを戻せば患者さんをリスクにさらすことなく満足してもらえるか、術式に内在するリスクを減らすことができるのか、そういった発想で術式を考案する必要があります。

患者さんが望むのは、「母趾がまっすぐになってほしい」「出っ張りが引っ込んでほしい」です。したがって、この2つの希望を最小のリスクで達成できれば、患者さんの満足のいく術式ができることになります。

記事が長くなってきましたので、筆者の方法は、「重度外反母趾に対する低侵襲で簡単な手術法(専門医向け)」でくわしく説明します。