アキレス腱付着部症の内視鏡手術

アキレス腱付着部症

筆者が考案したアキレス腱付着部症の内視鏡手術について説明します。
※この術式が掲載された論文は、こちらで閲覧することができます(ダウンロードも可能です)。
※「この術式は関西方面ではどこの病院で行っているのか」というご質問が相次いでおります。まだ十分に普及した術式ではありませんので、どこの病院でこの手術が行われているか把握できておりません。私の論文やこのブログなどを参考に、実際に行っている関西方面の先生がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけますと、こちらにお問い合わせがあった場合、紹介させていただきます。

要点

・アキレス腱付着部(骨化)症に対する従来の術式は、別の部位から採取した腱を移植する、侵襲の大きな手術です。おおむね治療成績は良好ですが、大きな創による合併症や復帰の遅さ、移植腱を採取するドナー側の問題などがあります。

そこで、筆者は低侵襲の内視鏡手術を考案し、手術を行っています。

  • 傷口は、アキレス腱付着部の内側に5mmの傷2か所のみです。
  • 手術時間は2.5時間(実際の執刀1.5時間+麻酔その他1時間)です。
  • 局所麻酔・日帰り手術でも可能です。
  • 入院期間は5-7日程度です。
  • 術後3週間はシーネ固定での全荷重歩行、2か月からジョギング開始、本格的なスポーツ復帰は3カ月からとしています。
  • 治療成績は良好です。
  • 2023年1月現在、約150名の方がこの手術を受けています。

内視鏡手術を考案した経緯

従来のアキレス腱付着部骨化症に対する手術は、侵襲の大きい手術です。方法は、アキレス腱の後ろに15㎝程度の傷口を作り、アキレス腱を露出させ、骨化部を取り除いたのちに、別のところから採取した腱を用いて再建します。

治療成績は比較的良いものの、15㎝程度の大きな傷口と、それに伴う創トラブル(痛みの残存や感染、創離開など)や、復帰の遅さ、移植腱を採取するドナー側の問題など、いろいろな問題をかかえています。

そこでもっと低侵襲にするために筆者が考案したのが、以下の内視鏡手術です。

従来のアキレス腱付着部症手術

手術法の概略

①骨棘の上下に5mm大の皮切をおき、②透視下に骨棘周囲を剥離、③骨用シェーバーで透視下に骨棘を削り、④できたスペースに内視鏡を入れ、⑤内視鏡下に削りカスの郭清する、という手術です。

手術方法の詳細(専門医向け)

準備

・患者さんの体位は腹臥位にします。
・股関節は外旋、膝は軽度屈曲にして、足の内側が手術台につくようにします。
※透視で側面像を見ながら手術するためです。このポジションが安定しないと、手術はやりにくくなります。
※股関節が固く、足の内側が手術台につかない場合は、健側の臀部にタオルを入れて調節します。

・透視装置、透視モニター、内視鏡モニターは患側におき、術者は健側に立ちます。
※反対でも大差ありません。

・被曝量が多くなるため防護対策をします。ターニケットは準備はしておきますが、通常はなしで手術可能です。

体位・皮切。術者は健側に立ち、モニター類は患側に置きます。アキレス腱付着部に書かれている2つの点が皮切の位置です。

皮切・骨棘周囲の剥離

・アキレス腱骨化部の近位端、遠位端からさらに1cm 近位、1cm 遠位に、それぞれ5mm の皮切を置きます。
※骨化部より1cm 離す理由は、透視下に骨切除を行う際、皮切と骨化部が被ると削りにくいからです。

骨化部周囲を鈍的に剥離します。
※骨棘を全周性にうまく剥離できる医療器具が見当たらないため、筆者は「ミネシマ アートライン」いうプラモデルの細工に用いる工具を滅菌して使っています。

透視下での剥離。骨棘周辺を全周性に剥離します。
器具の先端。耳かき状になっている端で裏側(写真左)、へら状になっている端(写真右)でその他の部分を剥離します。

透視下での骨棘切除

・全周性に剥離できたら、ポータルより3mm 骨用シェーバーを挿入し、透視下に骨を削っていきます。
※その際、どこまでが骨棘か、あらかじめ止血ピンなどで境界線を示した透視写真を撮っておくと、削りすぎが防止できます。
※とくにアキレス腱付着部の腹側は、正常に残存する貴重な付着部ですので、ここに削りこみすぎないよう術前にMRIでよく確認することをお勧めします。
遊離骨は、透視で取るよりも、内視鏡下に取るほうが簡単ですので、そのままにしておきます。

透視下での骨棘削り。アキレス腱付着部腹側に注意します。

内視鏡下での郭清

遠位から内視鏡を挿入

・このようにして大部分を削ったのち、削ってできた空洞に、径 2.3mm 内視鏡を挿入します。内視鏡は遠位ポータルから挿入し、径3.5mm軟部用シェーバーを近位ポータルから挿入します。
※遠位ポータルから鏡視するのは、①そのほうが位置関係を把握しやすい、②遊離骨は近位ポータルに近い方にある、からです。

中の様子

・骨の削りカスを軟部用シェーバーで郭清すると、残存する骨化部やアキレス腱、踵骨などがみえてきます。
骨化部の大部分は、アキレス腱ではなく、パラテノンであることがわかります。
※一部、骨なのかアキレス腱なのか判別しにくい変性アキレス腱も見ることができます。

・パラテノンの骨化部や変性アキレス腱などを、軟部用シェーバー、骨用シェーバー、パンチなどで郭清します。
※基本的にアキレス腱自体の郭清が必要なことは少ないです。

遊離骨の処置

・遊離骨はすぐに見えることもあれば、どこにあるか分からない場合もあります。どこか分からない場合は、透視下に鋭匙で触知して位置を確認したのち、内視鏡下に鋭匙でアキレス腱の中からくり抜き出すようにしていると、だんだんと露出してきます。内視鏡下によく見えるようになったら、骨用シェーバーで大きさを小さくしたのち、残りをパンチでつかむようにすると、アキレス腱を傷めないで取ることができます。

術中写真

・術中写真で削り残しを確認します。
※透視で見るときれいに見えても、レントゲンではかなり削り残しが残っていることがあります。

・改めてこれらを可及的に切除します。

・創は皮膚のみ4-0ナイロンで縫合します。

手術時間

・手術時間は2.5時間(麻酔などの時間1時間、実際の執刀時間1.5時間)です。

内視鏡を入れた直後。骨の削りカスなどで視野不良です。
ある程度骨の削りカスを郭清したところ。左側に骨棘を削った後の踵骨が見えています。上側の構造物はまだわかりません。
さらに郭清を進めると、踵骨に付着するアキレス腱が見えました。画面中央は骨化するアキレス腱周膜です。右側は皮膚の裏面です。
術前後のレントゲン。術前のアキレス腱付着部の骨棘がなくなっています。

術前後のMRI

術前MRI。アキレス腱付着部の骨棘、アキレス腱内の遊離骨、変性したアキレス腱などが見られます。遊離骨がアキレス腱内にある場所は、残されたわずかなアキレス腱のみで体を支えている状態のため、断裂の確率が高くなります。

術後MRI。アキレス腱付着部や遊離骨のあった部位、内視鏡で郭清した部位は、アキレス腱と同信号の組織で充たされており、アキレス腱が再生されたことを示唆します。郭清した部位と郭清しなかった部位は、明瞭な境界線を示しています。

後療法

術後は膝下シーネで全荷重歩行を許可します。

3週シーネ固定後、固定具なしでの歩行を許可します。
※骨化部が大きすぎるために、切除術後、残存するアキレス腱が少ない方に関しては、背屈制限のサポーターを使用します。

ジョギングは2か月から、スポーツは3カ月から許可します。

※スポーツへの復帰は、手術した方の半分は4.5か月で、7割の方は6か月で、9割の方は12か月以内に復帰しています(残りの方は再手術など)。

内視鏡手術の手術創(術後1か月半)。

治療成績

当院で手術した最初の26人26足の治療成績を示します。

症例26人26足(男18人 女8人)
平均年齢57.0歳 (37-74歳)
平均観察期間12.5か月 (5-27か月)
VAS
(visual analog scale)
52.9 (20-100) → 12.9 (0-55)
JSSF scale71.1 (43-98) → 96.0 (82-100)
・VASは、痛みなしを0、とても我慢できない最も強い痛みを100点としたときの、自己評価による痛み評価です。
・JSSF scaleは、日本足の外科学会が作成した、足の状態の総合評価指標(100点満点)です。

・26人中10人は、VAS 0, JSSF scale 100(すなわち最高の結果)を達成しています。

・成績不良例は3人で、3人ともアキレス腱付着部のひきつれ感でした。
・3人とも透視下の癒着剥離を行ったところ、症状は改善しました。

なぜ骨棘を削るだけでよくなるのか

骨棘によるパラテノンへの刺激がなくなったこと、骨棘を削った部位の骨からの出血により、アキレス腱付着部に修復されたこと、などが考えられます。



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