概要
これまでに考案してきてすでに確立された術式に関しては、ブログ内で紹介している通りですが、この他にも、筆者の中での最近のブレークスルーにより、術式としてはほば完成したものの、まだ症例数が少ないために公表に至っていない、という術式があります。どこに行っても「いい治療法がない」と言われ悩んでいらっしゃる方に、少しでも早く「治療の選択肢がある」ことを知っていただくため、ここに公開することとしました。
ブレークスルーがあった傷病・疾患
踵骨骨折後の可動域制限
踵骨骨折後、多くの方で”内返し”(足裏を見るように足をひねる動き)の可動域が制限します。これは、距骨下関節の癒着によるものです。
手術では、関節鏡下に距骨下関節の癒着を取る方法が考えられますが、標準化された方法が確立していません。過去の文献では数本のケースシリーズが散見される程度です。これは、癒着の程度によって関節鏡の難易度が大きく違い、どの踵骨骨折後にも安定して癒着を剥離できる方法が見つかっていなかったことによると思われます。しかし最近、この術式のテクニックに関して自分の中でブレークスルーがあり、ついに術式を標準化することができました。
このブレークスルーには、アキレス腱付着部症や外脛骨障害手術における、”スペースのないところにスペースを作って内視鏡手術をする”という技術が大いに関係しています。踵骨骨折後の距骨下関節は、癒着のために関節鏡を入れるスペースがほとんどなく、単なる関節鏡の技術だけでは局面を打開できません。しかしこの”スペースを作る”技術を加えることで、ひどい癒着によってどんなに視野が妨げられていても、安定して視野を確保し、十分に癒着を取ることができるようになりました。
この手術を受けた患者さんからは「今まで動かしたときにゴキゴキ鳴っていたのがなくなり、明らかに動きがよくなった」との声をいただいています。
脳梗塞・腓骨神経麻痺などによる内反尖足
脳梗塞・腓骨神経麻痺などさまざまな神経麻痺が原因で、内反尖足となってしまう場合があります。これにより、足裏をちゃんとついて歩くことができなくなり、装具に頼らざるを得なくなります。
これに関しても、標準化した術式が確立していません。おそらく「麻痺をどのように判断するか」と、「その判断をどのように術式に反映させるのか」が、文献上、明瞭に説明されていないからだと思われます。
筆者のところでも、これまでも多くの方が手術を受けに来られ、その都度麻痺を評価し、その方にとって一番良い術式が何かを考えながら治療を行ってきましたが、長年の経験から、徐々に標準化した術式が確立してきました。
ポイントとしては、「麻痺の評価:特に内反の筋力の残存具合」と「 足部の可塑性」の2点で判断します。
尖足になるくらいですから、下腿三頭筋が背屈筋に比べて強すぎるのは明白です。尖足を矯正するためにも、下腿三頭筋の筋力を落とすためにも、アキレス腱の延長を行います。
内反する筋には「前脛骨筋」と「後脛骨筋」がありますが、特に後脛骨筋の筋力の残存がポイントとなります。
後脛骨筋は内反にも尖足にも作用しますので、この筋力が残っている場合は、内反と尖足の力を弱め、尖足にしようとする下腿三頭筋や、内反にしようとする前脛骨筋に対抗させるため、足部の前外側に腱移行します。
後脛骨筋の筋力が消失し、前脛骨筋の筋力が残っている場合には、内反の力を弱め、尖足にしようとする下腿三頭筋に対抗させるため、前脛骨筋を足背の中心からやや外側に腱移行します。
麻痺に関してはこれで終了です。次に「足部の可塑性の評価」です。麻痺の程度が強かったり、長年の麻痺によって足部が内反尖足位に固まってしまっているときは、上記の腱移行や腱延長だけでは足部をいい位置にキープできませんので、後足部の関節固定を追加します。
言われてしまえば簡単なdecision makingなのですが、神経麻痺後の内反尖足に対して手術を行っている病院は皆無なようです。当院で手術を受けた患者さんの中には、全国の大学病院や足の外科専門をうたっている病院20数か所で治療を断られたという方もいらっしゃいます。
なお、ここでは触れませんでしたが、腰部脊柱管狭窄症術後の残存麻痺による下垂足に対しても、ほぼ同様の考え方で手術を行うことができます。
母趾のガングリオン
母趾にガングリオン(粘液の入った袋)ができる場合があり、大きくなると歩行障害や靴に当たるなどの症状が出ます。ガングリオンというもの自体、手術を受けても10数%再発する可能性があり、かつ母趾の先端という繊細な場所に大きな傷を作るのはためらわれるといったことから、なかなか手術に踏み切るのは難しいものです。また近年、母趾のガングリオンが、足関節の後方関節包の破綻や長母趾屈筋腱内の索状物がチェックバルブとなって液体が流入しつづけることが原因であるといった”まことしやかな”説もそれなりに受け入れられており、手術法も混とんをきわめています。
筆者のところで行っているブレークスルー的術式は、「ガングリオンの中に内視鏡を入れ、ガングリオンの中から袋を切除する」という方法です。この方法だと、5ミリの皮切2か所のみでガングリオンの袋を切除することが可能になります。この術式の発想は、外脛骨障害の手術で「外脛骨の中に内視鏡のワーキングスペースを作って、外脛骨の内側から外脛骨を削る」という発想から来ています。ガングリオン内にカメラを入れると広々としており、ガングリオンの被膜、皮下脂肪、腱、神経などが明確に識別できるため、安全に被膜のみを切除することが可能です。足関節後方関節包や腱鞘内索状物の影響はまだ憶測の域を超えていませんので、余計な侵襲を避けるべく、特に処置を行っていません。
ガングリオン手術においては再発が問題となりますが、筆者の症例では、今のところ再発は起こっていません。手術侵襲による組織の瘢痕化がガングリオンの再生を阻止していると考えられます。
足根骨癒合症の内視鏡手術
そもそも足根骨癒合症の手術は、傷の大きな観血的手術でも内視鏡手術でも難しい手術です。その原因としては、傷を大きくしようとしまいと癒合部が分かりにくい、ということによります。
いずれにせよ難しいなら、傷が小さい内視鏡手術の方が優れています。ところが、足根骨癒合症の内視鏡手術の文献は過去に10本程度しかなく、いまだに標準化されていません。
その理由としては、確かに簡単に内視鏡手術を行えるタイプの足根骨癒合症もあるのですが、癒合のしかたや形状が多彩なため、ある方法が別のタイプの癒合症に必ずしも有効でないことが挙げられます。
筆者のところでも、簡単に内視鏡手術を行えるケースもあれば、苦戦するケースもあり、そのたびに足根骨癒合症の内視鏡手術の難しさを痛感していました。
しかし最近になって、どのタイプにも適応できる方法を見つけることができました。この方法にも、アキレス腱付着部症や外脛骨障害、母趾種子骨障害などの内視鏡手術でのテクニックがふんだんに盛り込まれています。まずは、透視を使って内視鏡用のワーキングスペースを作るというアキレス腱付着部症や外脛骨障害手術の技術、次に、腱が近いところでは関節鏡用のシェーバーを使わずに鋭匙で愛護的にワーキングスペースを作るという母趾種子骨障害の技術、そして最後に、足根骨癒合症手術特有の技術としては、”細かい癒合の形状の違いは気にしない”という技術です。最後については、論文執筆の都合上詳細が明かせないため、何を言っているのかよく分からないかと思いますが、これこそがどんなタイプの足根骨癒合症にも適応できるブレークスルー的発想です。

