【Accept】足底腱膜炎に対する内視鏡下足底腱膜切離術

論文日記

概要

もともとは内視鏡下足底腱膜切離術と内視鏡下骨棘切除術の比較論文でしたが、比較のために用いた傾向スコアを用いた逆確率重みづけ法という統計手法が、概念的に査読者の理解を得られず、それぞれの術式に分けて公表することとなった片方の術式に関する論文です。2022-8-9、Foot & Ankle Specialist (FAS) にアクセプトされました。

経過

2022-3-28:他に取組んでいる論文がひと段落ついてきたので、ついでにこの論文も開始してしまおうと決意。内視鏡下骨棘切除術の論文の引用文献や表の形などはそのまま使えるため、このファイルをコピペし、使えるところを残して他はすべて消去。

2022-3-29:イントロダクションと方法、ディスカッションで書くべき内容を箇条書きに列挙(日本語)。イントロダクションの英訳。

2020-3-30:イントロダクションの英訳。方法の記載(日本語)。方法の英訳。もう一度データ解析。グラフの作成。ディスカッションの原稿書き(日本語)。結果の記載。

2022-3-31:ディスカッションの原稿書き(日本語)。ディスカッションの英訳。引用文献の整理と本文中への記入。図の選び直し(足底腱膜炎骨棘切除の論文とかぶらないように)。うち2枚は他に写真がないので、写し直さなければならない。図の説明。投稿先(The Journal of Foot and Ankle Surgery)の投稿規定に合わせたレイアウトに。全体を通読しての見直し。アブストラクトの執筆。ひとまず完成。英語添削会社Enagoに提出。返却は4月2日朝6時。

2022-4-2:Enagoから返却。今回の添削はあまりに今一つ。医学論文で使われる構文(平易)ではなく、妙に複文にしたり、見慣れない言い回しを使ったり。添削者のプロフィールを見ると農学系だった。さらに、内容もろくに理解していないのに、妙に論理の流れを明確にしようとするものだから、帳尻合わせの誤解がいくつもあった。いちいち訂正しようとしたが、あまりにその数が膨大なため断念。そこで、かねてから興味のあったElsevierのLanguage Editing Serviceにオーダーし直し。お金は高くつくが、2つの添削結果を見比べるのも面白そうなのでまぁいいか。

2022-4-7:差し替えるべき写真の撮り直し。Elsevierから添削が返却。

2022-4-8:Elsevierによる添削とEnagoの添削の比較。両者とも英語としては変ではないが、Elsevierのほうがいつも読んでいる医学英語論文で見かける表現を使って直していて、「それが言いたかった!」と思える訂正だった。Enagoの訂正が変だと思ったのは、ひとえに添削者の専門が農学系だったことのよう。たぶん農学系ではその表現が普通なのだろう。そういえば大学教養の授業を思い出しても、法律の先生や哲学の先生は何だか変な言葉を使っていた。やはりその分野で通じやすい表現というものがあるようだ。Enagoも医学英語に精通した添削者に当たれば何の問題もないが、今回のように別の分野の添削者に当たってしまうとがっかりした添削になってしまう。その点、Elsevierは医学論文を世界的に牛耳っている会社なので、医学英語に精通した添削者の層が厚い気がした。

2022-4-9:全体を通読しての手直し。Elsevierの添削の中にも、意図とは別のかたちに直されてしまっているところがないわけではない。そのときは、その箇所だけEnagoの添削と差し替えればいいので便利。差し替えるべき図の作成。カバーレターの確認。利益相反の記入用紙のダウンロードと記入。The Journal of Foot and Ankle Surgery (JFAS)に提出。査読待ちに。

2022-4-10:Current Statusは”Submitted to Journal”。

2022-4-13:JFASからメール。「原稿の途中にある表は、原稿の最後に移してください」とのこと。投稿規定で「表は本文の途中でもよい」と書いてあるのでそうしたが(Elsevierの添削者のチェック済み)、係の人はそれを認識していないのだろう。抵抗しても仕方がないので、指示通り表を最後に移して再提出。

2022-4-15:JFASからメール。「論文の割り当て番号と担当のeditorが決まりました」とのこと。

2022-4-16:”Current Status”は”With Editor”。

2022-4-18:JFASの担当のeditorからメール。「姉妹雑誌Foot & Ankle Surgery: Techniques, Reports & Casesへの再投稿をお勧めします」とのこと。ということはJFASはreject(笑)。確かにこの論文は新奇性に乏しいし、自分が考え出した手術法でもないので、まぁいいか。というより、このくらいの論文ならJFASには載りそうなものなのに、門前払いは意外。PubMedで調べると、ここ10年間でJFASの年間論文数が倍になっている。ということは、それだけ競争が激しくなってきたのだろう。
ただ、JFAS姉妹雑誌の「Foot & Ankle Surgery: Techniques, Reports & Cases」はPubMed雑誌でないので、さすがにそこへの投稿はありえない。それならば、これをきっかけに、他の今後投稿する可能性のあるPubMed雑誌に投稿してみよう。次はFoot & Ankle Specialist、そこもダメならFootに投稿するか。open accessで興味がある雑誌は、この論文がopen accessになってもあまりうれしくないのでやめておこう。

2022-4-19:JFASをrejectになった理由を改めて考えると、この論文の研究としての「質が低い」ことがまず思い当たる。この論文では、すでに発表されている手術法をそのまま行った40人の結果を報告し、この方法と同様の術式の治療結果と合わせた上で、対立する別の方法と比較、その結果、治療成績は良いものの合併症が多いことを指摘、その理由を推察している。しかし、この「合併症が多い理由」は、この論文で検証されたわけではなく、あくまで推論(憶測)である。すなわち、この論文で行ったことを簡単に言ってしまえば、「従来の手術法の治療成績の報告と憶測」であるため、「仮説と検証」と基盤とする科学の観点からすれば、この論文は「質が低い」ということになる。
このような論文を世に出すのは難しいところだ。足の外科ではよくあることだが、一見よさそうな術式もたくさんやってみると、実はその中に内包された「問題点」があることに気づく。そのような「気づき」は、まだ経験の浅い術者にしてみればとても助かる話なのだが、ではその「気づき」は検証されたかというと、そうではないのである。その「気づき」から出発し、「仮説→検証」を経て初めて、その「気づき」は科学的に証明されたこととなる。しかし、この「仮説→検証」は、人を扱う手術法の場合、倫理的な問題を含んでいて、その研究の実施にはとても面倒な手続きが必要なため、多くの「気づき」は気づきのままで終わってしまう。
このような「気づき」は、論文の形で発表すべきだろうか。せっかく人に良かれと思って発表しておきながら、「質が低い」で片づけられるのもやるせない。しかもこの論文は、本質的に「人の考えた手術法のダメ出し」であるため、あまりいい気分もしない。そんな論文に、別の投稿先を探して、さらにその投稿先に合わせたフォーマットにする、という面倒な作業をするのも気が進まない。さらにそこでも「質が低い」という同じ理由でrejectされる可能性も高い。。
だんだんこの論文は「お蔵入り」にしたくなってきた。もう少し考えよう。

2022-4-22:この論文の唯一の主張である術式の問題点は、足底腱膜炎に関するもうひとつの論文「足底腱膜炎に対する内視鏡下骨棘切除術」にも書いてあるので、あえてこの論文を積極的に発表する意味に乏しい。また、自分の今まで出した論文や現在取り組んでいる他の論文は、自分ではかなり面白いものがそろっていると思っているが、この論文はその中では断トツの駄作だ。どうせこれからも論文は出し続けるから、1本減ったところでどうということはないし、これ以上、こんな駄作のために労力をすり減らすのはバカらしい。ということで、この論文はお蔵入りとしよう。
この論文では、①新奇性に乏しいと評価が相当低くなる、②英語論文添削会社は、マンパワー不足で専門外の担当者が添削するようなところは選ばないほうがよい、③論文数の水増しするために書いたような論文(駄作)は、受け入れ先を探すのに予想以上に苦労する(駄作のために努力しなければならない精神的苦痛を味わう)のでやめたほうがよい、ことなどが勉強になった。

2022-4-27:どうも悩ましい。今日、手術の見学にいらした先生と話していると、やはり足の外科の世界で、内視鏡礼賛的なスタンスがあることや、透視など使えるものを使おうとしないこと、軟部組織のような見えない視野での模索的操作に関するリスクをあまり考えていないことなど、足の外科医に共通する見落としみたいなものがある、という話になった。この論文はまさにそれであって、足の外科医に一言注意を喚起するという意味では、意味のある論文ではあるのかと思った。この論文は今はとりあえず「お蔵入り」としておくが、またいつかいい落としどころを考えだしたら「蔵出し」するかもしれない。

2022-5-2:この論文として公表する意味として、将来的に誰かがsystematic reviewを書くとき、症例数の一部として使われる、というのもある。また、上記の注意喚起としても意味がないわけではない。なので、足の外科雑誌:Foot & Ankle SpecialistもしくはThe Footに投稿してみようかと考えた。投稿規定を読むと、Foot & Ankle Specialistは、Abstractを200語以内にしなければならず、The Footは、箇条書きのまとめをつけなければならない点や、画像の解像度を上げなければならないことなどが新たにするべき作業。どちらの雑誌にするか検討した結果、ひとまずFoot & Ankle Specialistに投稿することに。ある程度自分でフォーマット調整したのち、Elsevier Language Editing Surviceに校正依頼。返却は5月7日予定。

2022-5-6:Elsevierから校正原稿が返却。単なるフォーマット調整だけでなく、再度全体を通じて添削されていた。ありがたい。修正履歴などを消して提出できる形に。Foot & Ankle Specialistに提出。

2022-5-7:”Status”は”Undergoing Peer Review”。

2022-6-17:”Undergoing Peer Review”のまま。

2022-6-21:”Awaiting Final Decision”に。

2022-6-29:”Awaiting Final Decision”のまま。

2022-7-12:Foot & Ankle Specialist (FAS)の編集長からメール。2人の査読者の評価は、ひとりは再査読なしのminor revision & accept、もうひとりはmajor revision & re-reviewだったが、コメントを見ると大きな変更は必要としない実質minor revisionだった。全部で10個のコメント。

2022-7-13:査読コメントに応じた論文の修正。いつもはすぐには取り掛かる気になれず、1日放っておいているが、今回はその必要がなかった。この論文の受け入れられ先の見通しが立たなかったところにFASからminor revisionで受け入れられるメールが来たので、俄然やる気が出てきた。FASでrejectされ、別の投稿先を探す覚悟もしていたが、何とかFASで留まれそうでよかった。

2022-7-14:今回の査読コメントでは、目的と結論の不一致についての指摘が多かった(10個中6個)。特に結果を踏まえての結論が”言いすぎ”なことを指摘されていた。JFASにrejectされた理由も同じだったかもしれない。ただ今回の場合は、査読者がどこまで結論で言えるのかに言及してくれたのがよかった。今までの自分は結果から結論でさらに一歩進めてしまっていたが、ほとんど歩を進めないというか、結果=結論くらいでいいようだ。

2022-7-15:査読コメントに対する返答。

2022-7-16:査読コメントに対する返答。引用文献差し替えの検討。

2022-7-18:査読で指示された引用文献読み。カバーレターの作成。
今回の査読に対応した論文の修正がもたついているひとつの理由は、査読者のひとりが「イントロダクションで保存的治療についてもっと詳しく述べ、以下の論文を引用しながら、アキレス腱付着部症との関連についても論じて下さい」などというむちゃ振りをしてきたから(アキレス腱なんてこの論文に関係ない!)。提示された3つの文献を見ると、いずれもイタリアの○○大学からのものだった。おそらくこの査読者は、この3つの論文の執筆者の中の一人だろう。こういう、人の論文に難癖をつけて、自分の論文を引用させるような私欲に走った査読者は本当に迷惑だ。こんなコメントをまともに聞いて論文を書き替えたら、明らかに本旨とずれた記述になってしまう。かと言って、査読者なので完全に無視するわけにもいかない。それらの3つの文献に上手くさらっと言及しながらも、本旨の流れを崩さないように文を組み立てるのがとても難しい。まぁ不必要な引用文献が3つ増えたところで痛くもかゆくもないから、大人の対応をしよう。

2022-7-19:ほぼ完成。今日明日で見直し、明後日に画像の作り直し、週末に英語添削会社に提出、来週中には再提出できるか…などと思っていたら、FASからリマインドメール。「あと2週間以内に提出してください。間に合わない場合は、原稿は新規のものとして扱われます」と。そんなにすぐだっけと若干焦る。提出期限を見たら8月8日、リマインドメールの日付が7月19日。正確にはあと2週6日あるのだが、これを向こうの人は「2週以内(within two weeks)」と表現するのか!?

2022-7-20:修正原稿と査読コメントに対する返答の見直し。図の作り直し。できあがったので、英語を添削してもらうためElsevier Language Editing Serviceに提出。返却は7月27日予定。

2022-7-24:昨日Elsevierから添削が返却。いつものように早い。早速それを見ながら原稿を訂正。全部をそろえてFASに提出。途中、ファイルをアップロードしているのに「アップロードしていません」の表示が出て、20分ほど格闘したり、いつものように最終確認のPDFになったら行番号がずれるために、査読コメントに対する返答内の参照行番号を振り直したりしつつも、何とか提出した。後はお祈りするのみ。

2022-7-25:”Status”は”Awaiting Managing Editor Processing”。

2022-7-29:”Status”は”Awaiting Final Decision”に。

2022-8-9:編集長からアクセプトのメール。このアクセプトは素直にうれしい。理由は、この論文のネタが自分の考案した術式ではなく、既存の術式のピットフォールの指摘という気の進まない仕事であったことが大きい。気が進まない論文だったゆえに、JFASにrejectされたときの気の沈みようといったらなかった。それだけに、JFASとほぼ同じimpact factorのFASに何とかアクセプトされたのは感慨深い(提出時はJFASのIFの方が上だったが、ここ最近FASの方が上になった)。
IFはさておき、FASでの査読者の指摘はとても勉強になった。自分の論文の書き方上の不備:「目的と結論の不一致」(レトロスペクティブ研究では目的が後付けになるので、意外と書くのが難しい)と「結論の言いすぎ」をずばりと指摘してくれた。特に「結果とそこからの推論はしてもよいが、他の方法との優劣を決めることはできない」というのは金言だった。JFASが一発rejectになったのは、目的と結論の不一致や結論の言い過ぎが編集長には大きな欠陥に見えたからだろうし、FASがminor revision & acceptだったのは、そこさえ直せばあとはよいと第一査読者には見えたからだろう。ほぼ同等のIF雑誌でこれほど大きな判定の差になったのも、編集長や査読者の見解の違いによるところが大きいとわかり、これも勉強になった。今回、いい査読者に巡り合えて的確な指摘を受けられたのは”幸運”としか言いようがない。
喜びもつかの間、さっそく出版社SAGEにサイトに行き、権利譲渡書にサイン。サインして初めて出版作業が開始されるとのこと。

2022-8-12:FASからメール。何事かと思ったら、査読依頼のメールだった。アクセプトされたばかりの断りにくいこのタイミングで査読依頼をしてくるとはたちが悪い(笑)。今後もFASにはお世話になることもあるかと思うので、ここは快諾することに。

2022-8-15:査読原稿読み。原稿がシステマティックレビューなので、その勉強。システマティックレビューのやり方に関する論文:PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analyses)の論文を読むと、標準的術式として認められるのはとても大変なことだと思い知る。自分の考案したアキレス腱付着部症の内視鏡手術などは、世界の標準的術式となってよいと勝手に思っているが、そうなるためには、この前出した論文を誰かが読んで、その方法がよさそうだから自分の病院でもやってみようと思い、何年かかけて相当数の症例を行ったどこかの施設が既存の術式と治療成績を比較した論文を発表し、そういった論文がいくつか集まったところで誰かがシステマティックレビューを書く、という段階を踏まなければならない。20年後までにそこまで行くだろうか。

2022-8-18:システマティックレビューの文献読み。SAGEからメール。出版用の編集を開始しましたと。

2022-8-19:査読すべき原稿を読み、ひたすらに疑問に思った点をコメント欄に書き込み。人の論文の査読は面倒くさいが、やれば何かしら得るものがある。逆に丁寧な査読をしないと、それこそ単なる時間の無駄になってしまう。

2022-8-20:システマティックレビューの文献読み(PRISMA2020, AMSTAR2, ROBIS)。

2022-8-21:査読。

2022-8-22:査読のコメント書き。システマティックレビューの査読は、PRISMAのチェックリストの内容が含まれているかどうか確認しながら、あとは変なところを変えるようコメントすればいいだけなので簡単かもしれない。

2022-8-23:査読のコメント書き。ディスカッションで、他の論文の結果をただダラダラ引用するだけで何のコメントも書かれていないのを読むと、「だから何なんだ!?」とイライラする。それと不必要にディスカッションが長い。さらに、そんなにひどい英語ではないが、主語と動詞の不一致など明らかなミスが散見され、ネイティブのチェックを受けずに論文を提出する度胸に驚く(引用文献に中国語の文献があったので中国人かと推測)。

2022-8-24:査読。この論文はアキレス腱付着部症の治療についてであるが、アキレス腱付着部症とHaglund症候群の区別を明確にしないまま書いているため、至る所でそれによる不適切な記述が見られる。どうしてこういう査読者がいかにも突っ込みそうなところを曖昧なままやり過ごしてしまうのだろう。

2022-8-27:FASからあと1週間で査読を出してくださいとremindメールが来たので、一気に仕上げて提出。するとFASの出版元のSAGEからお礼のメールが届き、60日間のSAGEジャーナルへの無料アクセスの権利がもらえた。この前ハンマー趾の画期的な手術法が載っていた論文をFoot & Ankle International(FAI)で見かけたが、まだ新しすぎてアクセスに制限がかかっていた。FAIもSAGEジャーナルなので、さっそくこの機会を利用してダウンロード。これはラッキーだ。

2022-8-28:SAGEから自分の論文の出版原稿の最終チェックをするようメール。添付された出版原稿を見ると、レイアウトがとてもきれい。今まで自分の出した論文の中で一番きれいかもしれない。早速チェックすると、informed consentのところに一カ所訂正すべき箇所があった。そこを訂正して返送。来週あたりにpublishか。

2022-9-6:SAGEからpublishされましたとメール(こちら;ご希望の方にはPDFをお送りします)。これはオープンアクセスではないので、よほど足底腱膜炎の内視鏡手術について調べようと思った人以外には大して読まれないだろう(笑)。

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